あつまちのみちのはてよりも猶おくつかたにおいゝてたる人いか許かはあやしかりけむをいかにおもひはしめける事にか世中に物かたりといふ物のあんなるをいかて見はやとおもひつゝつれ/\なるひるまよひゐなとにあねまゝはゝなとやうの人々のその物かたりかのものかたりひかる源氏のあるやうなと ところ/\かたるをきくにいとゝゆかしさまされとわかおもふまゝにそらにいかてかおほえかたらむいみしく心もとなきまゝにとうしんにやくしほとけをつくりてゝあらひなとして人まにみそかにいりつゝ京にとくあけ給て物かたりのおほく侍なるあるかきり見せ給へと身をすてゝぬかをつきいのり申すほとに 十三になるとしのほらむとて九月三日かとてしていまたちといふ所にうつる年ころあそひなれつるところをあらはにこほちゝらしてたちさはきて日のいりきはのいとすこくきりわたりたるにくるまにのるとてうち見やりたれは人まにはまいりつゝぬかをつきしやくし仏のたち給へるを見すてたてまつるかなしくてひとしれすうちなかれぬかとてしたる 所はめくりなともなくてかりそめのかやゝのしとみなともなしすたれかけまくなとひきたり南はゝるかに野の方見やらるひむかし西はうみちかくていとおもしろしゆふきり立渡ていみしうおかしけれはあさいなともせすかた/\見つゝこゝをたちなむこともあはれにかなしきにおなし月の十五日あめかきくらしふるにさかひをいてゝしも つけのくにのいかたといふ所にとまりぬいほなともうきぬはかりに雨ふりなとすれはおそろしくていもねられす野中にをかたちたる所にたゝ木そみつたてるその日は雨にぬれたる物ともほしくにゝたちをくれたるひと/\まつとてそこに日をくらしつ十七日のつとめてたつ昔しもつさのくにゝまのしてらといふ人すみけりひきぬのを千むら万 むらをらせさらさせけるか家のあととてふかき河を舟にてわたるむかしの門のはしらのまたのこりたるとておほきなるはしらかはのなかによつたてりひと/\うたよむをきゝて心のうちにくちもせぬこのかはゝしらのこらすはむかしのあとをいかてしらましその夜はくろとのはまといふ所にとまる かたつかたはひろ山なる所のすなこはる/\としろきに松原しけりて月いみしうあかきに風のをともいみしう心ほそし人/\おかしかりてうたよみなとするにまとろましこよひならてはいつか見むくろとのはまの秋のよの月そのつとめてそこをたちてしもつさのくにとむさしとのさかひにてあるふとゐかはといふかゝみのせまつさとの わたりのつにとまりて夜ひとよ舟にてかつ/\物なとわたすめのとなる人はおとこなともなくなしてさかひにてこうみたりしかはゝなれてへちにのほるいとこひしけれはいかまほしく思にせうとなる人いたきてゐていきたりみな人はかりそめのかりやなといへと風すくましくひきわたしなとしたるにこれはおとこなともそはねは いとてはなちにあら/\しけにてとまといふ物をひとへうちふきたれは月のこりなくさしいりたるに紅のきぬうへにきてうちなやみてふしたる月かけさやうの人にはこよなくすきていとしろくきよけにてめつらしとおもひてかきなてつゝうちなくをいとあはれに見すてかたくおもへといそきゐていかるゝ心地いとあかすわりなしおもかけにおほえてかなしけれは月のけうも おほえすくんしふしぬつとめて舟に車かきすへてわたしてあなたのきしにくるまひきたてゝをくりにきつる人/\これよりみなかへりぬのほるはとまりなとしていきわかるゝほとゆくもとまるもみなゝきなとすおさな心地にもあはれに見ゆ今はむさしのくにゝなりぬことにおかしき所も見えすはまもすなこしろくなともなくこひちのやうにてむらさきおふと きく野もあしおきのみたかくおいてむまにのりてゆみもたるすゑ見えぬまてたかくおいしけりて中をわけゆくにたけしはといふ寺ありはるかにはゝさうなといふ所のらうのあとのいしすゑなとありいかなる所そとゝへはこれはいにしへたけしはといふさか也くにの人のありけるを火たきやの火たく衛しにさしたてまつりたりけるに御前の庭をはくとてなとや くるしきめを見るらむわかくにゝ七三つくりすへたるさかつほにさしわたしたるひたえのひさこのみなみ風ふけはきたになひき北風ふけは南になひきにしふけは東になひき東ふけは西になひくを見てかくてあるよとひとりこちつふやきけるをその時みかとの御むすめいみしうかしつかれ給たゝひとりみすのきはにたちいて給てはしらに よりかゝりて御覧するにこのをのこのかくひとりこつをいとあはれにいかなるひさこのいかになひくならむといみしうゆかしくおほされけれはみすをゝしあけてあのをのこゝちよれとめしけれはかしこまりてかうらんのつらにまいりたりけれはいひつることいまひとかへりわれにいひてきかせよとおほせられけれはさかつほのことをいまひとかへり申けれは我 ゐていきて見せよさいふやうありとおほせられけれはかしこくおそろしと思けれとさるへきにやありけむおいたてまつりてくたるにろんなく人をひてくらむと思てその夜勢多のはしのもとにこの宮をすへたてまつりてせ多のはしをひとまはかりこほちてそれをとひこえてこの宮をかきおいたてまつりて七日七夜といふにむさしのくにゝいきつきにけり みかときさきみこうせ給ひぬとおほしまとひもとめ給に武蔵のくにの衛しのをのこなむいとかうはしき物をくひにひきかけてとふやうにゝけけると申いてゝこのをのこをたつぬるになかりけりろんなくもとのくにゝこそゆくらめとおほやけよりつかひくたりてをふに勢多のはしこほれてえゆきやらす三月といふにむさしのくにゝいきつきてこのをのこをたつぬるに このみこおほやけつかひをめして我さるへきにやありけむこのをのこの家ゆかしくてゐてゆけといひしかはゐてきたりいみしくこゝありよくおほゆこのをのこつみしれうせられは我はいかてあれとこれもさきの世にこのくにゝあとをたるへきすく世こそありけめはやかへりておほやけにこのよしをそうせよとおほせられけれはいはむ方なくてのほりてみかとに かくなむありつるとそうしけれはいふかひなしそのをのこをつみしてもいまはこの宮をとりかへしみやこにかへしたてまつるへきにもあらすたけしはのをのこにいけらむ世のかきり武蔵のくにをあつけとらせておほやけこともなさせしたゝ宮にそのくにをあつけたてまつらせ給よしの宣旨くたりにけれはこの家を内裏のことくつくりてすませたてまつりける 家を宮なとうせ給にけれは寺になしたるをたけしはてらといふ也その宮のうみ給へることもはやかてむさしといふ姓をえてなむありけるそれよりのち火たきやに女はゐる也とかたる野山あしおきのなかをわくるよりほかのことなくてむさしとさかみとの中にゐてあすた河といふ在五中将のいさことゝはむとよみけるわたりなり中将のしふには すみた河とあり舟にてわたりぬれはさかみのくにゝなりぬにしとみといふ所の山ゑよくかきたらむ屏風をたてならへたらむやう也かたつかたは海はまのさまもよせかへる浪のけしきもいみしうおもしろしもろこしかはらといふ所もすなこのいみしうしろきを二三日ゆく夏はやまとなてしこのこくうすくにしきをひけるやうになむさきたるこれは 秋のすゑなれは見えぬといふに猶ところ/\はうちこほれつゝあはれけにさきわたれりもろこしかはらに山となてしこしもさきけむこそなと人/\おかしかるあしから山といふは四五日かねておそろしけにくらかりわたれりやう/\いりたつふもとのほとたにそらのけしきはか/\しくも見えすえもいはすしけりわたりていとおそろしけなり ふもとにやとりたるに月もなくくらき夜のやみにまとふやうなるにあそひ三人いつくよりともなくいてきたり五十許なるひとり二十許なる十四五なるとありいほのまへにからかさをさゝせてすへたりをのことも火をともして見れはむかしこはたといひけむかまこといふかみいとなかくひたひいとよくかゝりていろしろくきたなけなくてさてもありぬへき しもつかへなとにてもありぬへしなと人/\あはれかるにこゑすへてにるものなくそらにすみのほりてめてたくうたをうたふ人/\いみしうあはれかりてけちかくて人/\もてけうするにゝしくにのあそひはえかゝらしなといふをきゝてなにはわたりにくらふれはとめてたくうたひたり見るめのいときたなけなきにこゑさへにるものなく うたひてさはかりおそろしけなる山中にたちてゆくを人/\あかす思てみなゝくをおさなき心地にはましてこのやとりをたゝむことさへあかすおほゆまたあかつきよりあしからをこゆまいて山のなかのおそろしけなる事いはむ方なし雲はあしのしたにふまる山のなから許の木のしたのわつかなるにあふひのたゝみすちはかりあるを世はなれて かゝる山中にしもおいけむよと人/\あはれかる水はその山に三所そなかれたるからうしてこえいてゝせき山にとゝまりぬこれよりは駿河也よこはしりの関のかたはらにいはつほといふ所ありえもいはすおほきなるいしのよほうなる中にあなのあきたる中よりいつる水のきよくつめたきことかきりなしふしの山はこのくに也わかおいゝてし くにゝてはにしをもてに見えし山也その山のさまいと世に見えぬさまなりさまことなる山のすかたのこむしやうをぬりたるやうなるにゆきのきゆる世もなくつもりたれはいろこきゝぬにしろきあこめきたらむやうに見えて山のいたゝきのすこしたひらきたるよりけふりはたちのほるゆふくれは火のもえ立も見ゆきよみかせきはかたつかたは 海なるに関屋ともあまたありてうみまてくきぬきしたりけふりあふにやあらむきよみかせきの浪もたかくなりぬへしおもしろきことかきりなしたこの浦は浪たかくて舟にてこきめくるおほ井かはといふわたりあり水の世のつねならすすりこなとをこくてなかしたらむやうにしろき水はやくなかれたりふし河といふはふしの山より おちたる水也そのくにの人のいてゝかたるやうひとゝせころ物にまかりたりしにいとあつかりしかはこの水のつらにやすみつゝ見れは河上の方よりきなる物なかれきて物につきてとゝまりたるを見れはほくなりとりあけて見れはきなるかみににしてこくうるわしくかゝれたりあやしくて見れはらいねんなるへきくにともをちもくのことみなかきて このくにらいねんあくへきにもかみなして又そへて二人をなしたりあやしあさましと思てとりあけてほしておさめたりしをかへる年のつかさめしにこのふみにかゝれたりしひとつたかはすこのくにのかみとありしまゝなるを三月のうちになくなりて又なりかはりたるもこのかたはらにかきつけられたりし人なりかゝる事なむありし らいねんのつかさめしなとはことしこの山にそこはくの神/\あつまりてない給なりけりと見給へしめつらかなる事にさふらふとかたるぬましりといふ所もすか/\とすきていみしくわつらひいてゝとうたうみにかゝるさやのなか山なとこえけむほともおほえすいみしくゝるしけれはてちうといふ河のつらにかりやつくりまうけたりけれはそこにて日ころ すくるほとにそやう/\をこたる冬ふかくなりたれは河風けはしくふきあけつゝたえかたくおほえけりそのわたりしてはまなのはしについたりはまなのはしくたりし時はくろ木をわたしたりしこのたひはあとたに見えねは舟にてわたるいり江にわたりしはし也とのうみはいといみしくあしく 浪たかくていり江のいたつらなるすともにこと物もなく松原のしけれるなかより浪のよせかへるもいろ/\のたまのやうに見えまことに松のすゑよりなみはこゆるやうに見えていみしくおもしろしそれよりかみはゐのはなといふさかのえもいはすわひしきをのほりぬれはみかはのくにのたかしのはまといふやつはしは名のみしてはしの方もなくなにの 見所もなしふたむらの山の中にとまりたる夜おほきなるかきの木のしたにいほをつくりたれは夜ひとよいほのうへにかきのおちかゝりたるを人/\ひろひなとす宮ちの山といふ所こゆるほと十月つこもりなるに紅葉ちらてさかりなりあらしこそふきこさりけれみやち山またもみちはのちらてのこれる参河と尾張となるしかすかのわたり けに思わつらひぬへくおかしおはりのくになるみのうらをすくるにゆふしほたゝみちにみちてこよひやとらむもちうけんにしほみちきなはこゝをもすきしとあるかきりはしりまとひすきぬみのゝくにゝなるさかひにすのまたといふわたりしてのかみといふ所につきぬそこにあそひともいてきて夜ひとようた/\ふにもあしからなりし思いてられてあはれに こひしきことかきりなし雪ふりあれまとふにものゝけうもなくてふわのせきあつみの山なとこえて近江国おきなかといふ人の家にやとりて四五日ありみつさかの山のふもとによるひるしくれあられふりみたれて日のひかりもさやかならすいみしう物むつかしそこをたちていぬかみかむさきやすくるもとなといふ所/\なにとなくすきぬ 水うみのおもてはる/\としてなてしまちくふしまなといふ所の見えたるいとおもしろし勢多のはしみなくつれてわたりわつらふあはつにとゝまりてしはすの二日京にいるくらくいきつくへくとさるの時許にたちてゆけは関ちかくなりて山つらにかりそめなるきりかけといふ物したるかみより丈六の仏のいまたあらつくりにおはするか かほはかり見やられたりあはれに人はなれていつこともなくておはするほとけかなとうち見やりてすきぬこゝらのくに/\をすきぬるにするかのきよみか関と相坂の関とはかりはなかりけりいとくらくなりて三條の宮のにしなる所につきぬひろ/\とあれたる所のすきゝつる山/\にもおとらすおほきにおそろしけなるみやま木とものやうにて みやこの内とも見えぬ所のさまなりありもつかすいみしうものさはかしけれともいつしかと思し事なれはものかたりもとめて見せよ/\とはゝをせむれは三條の宮にしそくなる人の衛門の命婦とてさふらひけるたつねてふみやりたれはめつらしかりてよろこひて御前のをおろしたるとてわさとめてたきさうしともすゝりのはこのふたにいれて をこせたりうれしくいみしくてよるひるこれを見るよりうちはしめ又/\も見まほしきにありもつかぬみやこのほとりにたれかは物かたりもとめ見する人のあらむまゝはゝなりし人は宮つかへせしかくたりしなれは思しにあらぬことゝもなとありて世中うらめしけにてほかにわたるとていつゝはかりなるちこ ともなとしてあはれなりつる心のほとなむわすれむ世あるましきなといひて梅の木のつまちかくていとおほきなるをこれか花のさかむおりはこむよといひをきてわたりぬるを心の内にこひしくあはれ也と思つゝしのひねをのみなきてその年もかへりぬいつしか梅さかなむこむとありしをさやあるとめをかけてまちわたるに花もみなさきぬれとをとも せす思わひて花をおりてやるたのめしを猶やまつへき霜かれし梅をも春はわすれさりけりといひやりたれはあはれなることゝもかきて猶たのめ梅のたちえはちきりをかぬおもひのほかの人もとふなりその春世中いみしうさはかしうてまつさとのわたりの月かけあはれに見し めのとも三月ついたちになくなりぬせむ方なく思なけくに物かたりのゆかしさもおほえすなりぬいみしくなきくらして見いたしたれはゆふ日のいとはなやかにさしたるにさくらの花のこりなくちりみたるちる花も又こむ春は見もやせむやかてわかれし人そこひしき又きけは侍従の大納言の御むすめ なくなり給ひぬなり殿の中将のおほしなけくなるさまわかものゝかなしきおりなれはいみしくあはれなりときくのほりつきたりし時これ手本にせよとてこのひめきみの御てをとらせたりしをさ夜ふけてねさめさりせはなとかきてとりへ山たにゝけふりのもえたゝははかなく見えしわれとしらなむといひしらすおかしけにめてたく かき給へるを見ていとゝなみたをそへまさるかくのみ思くんしたるを心もなくさめむと心くるしかりてはゝ物かたりなともとめて見せ給にけにをのつからなくさみゆくむらさきのゆかりを見てつゝきの見まほしくおほゆれと人かたらひなともえせすたれもいまたみやこなれぬほとにてえ見つけすいみしく心もとなくゆかしくおほゆるまゝにこの 源氏の物かたり一のまきよりしてみな見せ給へと心の内にいのるおやのうつまさにこもり給へるにもこと事なくこの事を申ていてむまゝにこの物かたり見はてむとおもへと見えすいとくちおしく思なけかるゝにをはなる人のゐ中よりのほりたる所にわたいたれはいとうつくしうおいなりにけりなとあはれかり めつらしかりてかへるになにをかたてまつらむまめ/\しき物はまさなかりなむゆかしくし給なるものをたてまつらむとて源氏の五十余巻ひつにいりなからさい□□とをきみせり河しらゝあさうつなといふ物かたりともひとふくろとりいれてえてかへる心地のうれしさそいみしきやはしる/\わつかに見つゝ心もえす心もとなく思源氏を一の巻よりして 人もましらすきちやうの内にうちふしてひきいてつゝ見る心地きさきのくらひもなにゝかはせむひるはひくらしよるはめのさめたるかきり火をちかくともしてこれを見るよりほかの事なけれはをのつからなとはそらにおほえうかふをいみしきことに思に夢にいときよけなるそうのきなる地のけさきたるかきて法華経五巻をとくならへと いふと見れと人にもかたらすならはむとも思かけす物かたりの事をのみ心にしめてわれはこのころわろきそかしさかりにならはかたちもかきりなくよくかみもいみしくなかくなりなむひかるの源氏のゆふかほ宇治の大将のうき舟の女きみのやうにこそあらめと思ける心まついとはかなくあさまし五月ついたちころつまちかき花たちはなのいとしろく ちりたるをなかめて時ならすふる雪かとそなかめまし花橘のかほらさりせはあしからといひし山のふもとにくらかりわたりたりし木のやうにしけれる所なれは十月許の紅葉よもの山辺よりもけにいみしくおもしろくにしきをひけるやうなるにほかよりきたる人のとまいり つるみちにもみちのいとおもしろき所のありつるといふにふといつこにもおとらし物をわかやとの世を秋はつるけしき許は物かたりの事をひるはひくらし思つゝけよるもめのさめたるかきりはこれをのみ心にかけたるに夢に見ゆるやうこのころ皇太后宮の一品の宮の御れうに六角堂にやり水をなむつくるといふ人あるをそはいかにと とへはあまてる御神をねむしませといふと見て人にもかたらすなにともおもはてやみぬるいといふかひなし春ことにこの一品宮をなかめやりつゝさくとまちゝりぬとなけく春はたゝわかやとかほに花を見るかな三月つこもりかたつちいみに人のもとにわたりたるにさくらさかりに おもしろくいまゝてちらぬもありかへりて又の日あかさりしやとの桜を春くれてちりかたにしもひとめ見し哉といひにやる花のさきちるおりことにめのとなくなりしおりそかしとのみあはれなるにおなしおりなくなり給し侍従大納言の御むすめの手を見つゝすゝろにあはれなるに 五月許夜ふくるまて物かたりをよみておきゐたれはきつらむ方も見えぬにねこのいとなこうないたるをおとろきて見れはいみしうおかしけなるねこありいつくよりきつるねこそと見るにあねなる人あなかま人にきかすないとおかしけなるねこなりかはむとあるにいみしうひとなれつゝかたはらにうちふしたりたつぬる人やあるとこれをかく してかふにすへて下すのあたりにもよらすつとまへにのみありて物もきたなけなるはほかさまにかほをむけてくはすあねおとゝの中につとまとはれておかしかりらうたかるほとにあねのなやむことあるにものさはかしくてこのねこをきたおもてにのみあらせてよはねはかしかましくなきのゝしれともなをさるにてこそはと思てあるにわつらふあね おとろきていつらねこはこちゐてことあるをなとゝとへは夢にこのねこのかたはらにきてをのれはしゝうの大納言殿の御むすめのかくなりたるなりさるへきえんのいさゝかありてこの中のきみのすゝろにあはれと思いて給へはたゝしはしこゝにあるをこのころ下すのなかにありていみしうわひしきことゝいひていみしうなくさまはあてにおかしけなる ひとゝ見えてうちおとろきたれはこのねこのこゑにてありつるかいみしくあはれなる也とかたり給をきくにいみしくあはれ也そのゝちはこのねこを北をもてにもいたさす思かしつくたゝひとりゐたる所にこのねこかむかひゐたれはかいなてつゝ侍従大納言のひめきみのおはするな大納言殿にしらせたてまつらはやといひかくれはかほをうちまもりつゝなこうなくも心の なしめのうちつけにれいのねこにはあらすきゝしりかほにあはれ也世中に長恨歌といふゝみを物かたりにかきてある所あんなりときくにいみしくゆかしけれとえいひよらぬにさるへきたよりをたつねて七月七日いひやるちきりけむ昔のけふのゆかしさにあまの河なみうちいてつるかな返し たちいつるあまの河辺のゆかしさにつねはゆゝしきこともわすれぬその十三日の夜月いみしくくまなくあかきにみな人もねたる夜中許にえんにいてゐてあねなる人そらをつく/\となかめてたゝいまゆくゑなくとひうせなはいかゝ思へきとゝふになまおそろしとおもへるけしきを見てこと事にいひなしてわらひなとしてきけはかたはらなる所にさき をふくるまとまりておきのは/\とよはすれとこたへさなりよひわつらひてふえをいとおかしくふきすましてすきぬなりふえのねのたゝ秋風ときこゆるになとおきのはのそよとこたへぬといひたれはけにとておきのはのこたふるまてもふきよらてたゝにすきぬるふえのねそうきかやうにあくるまてなかめあかいて 夜あけてそみな人ねぬるそのかへる年四月の夜中はかりに火のことありて大納言殿のひめきみと思かしつきしねこもやけぬ大納言殿のひめきみとよひしかはきゝしりかほになきてあゆみきなとせしかはてゝなりし人もめつらかにあはれなる事也大納言に申さむなとありしほとにいみしうあはれにくちおしくおほゆひろ/\とものふかきみ山のやうには ありなから花紅葉のおりはよもの山辺もなにならぬを見ならひたるにたとしへなくせはき所の庭のほともなく木なともなきにいと心うきにむかひなる所にむめこうはいなとさきみたれて風につけてかゝえくるにつけてもすみなれしふるさとかきりなく思いてらるにほひくるとなりの風を身にしめてありしのきはのむめそこひしき その五月のついたちにあねなる人こうみてなくなりぬよそのことたにおさなくよりいみしくあはれと思わたるにましていはむ方なくあはれかなしとおもひなけかるはゝなとはみなゝくなりたる方にあるにかたみにとまりたるおさなき人/\を左右にふせたるにあれたるいたやのひまより月のもりきてちこのかほにあたりたるかいとゆゝしくおほゆれはそてをうち おほひていまひとりをもかきよせて思そいみしきやそのほとすきてしそくなる人の許よりむかしの人のかならすもとめてをこせよとありしかはもとめしにそのおりはえ見いてすなりにしをいましも人のをこせたるかあはれにかなしきことゝてかはねたつぬる宮といふ物かたりをゝこせたりまことにそあはれなるや返ことにうつもれぬかはねをなにゝたつねけむ こけのしたには身こそなりけれめのとなりし人いまはなにゝつけてかなとなく/\もとありける所にかへりわたるにふるさとにかくこそ人はかへりけれあはれいかなるわかれなりけむむかしのかたみにはいかてとなむ思なとかきてすゝりの水のこほれはみなとちられてとゝめつといひたるにかきなかすあとはつらゝにとちてけり なにをわすれぬかたみとか見むといひやりたる返ことになくさむる方もなきさのはまちとりなにかうき世にあともとゝめむこのめのとはか所見てなく/\かへりたりしのほりけむのへは煙もなかりけむいつこをはかとたつねてか見しこれをきゝてまゝはゝなりし人そこはかとしりてゆかねとさきにたつなみたそみちのしるへなりける かはねたつぬる宮をこせたりし人すみなれぬのへのさゝはらあとはかもなく/\いかにたつねわひけむこれを見てせうとはその夜をくりにいきたりしかは見しまゝにもえし煙はつきにしをいかゝたつねし野へのさゝはら雪の日をへてふるころよしの山にすむあまきみを思やるゆきふりてまれの人めもたえぬらむよしのゝ山のみねのかけみち かへるとしむ月のつかさめしにおやのよろこひすへきことありしにかひなきつとめておなし心におもふへき人のもとよりさりともと思つゝあくるをまちつる心もとなさといひてあくるまつかねのこゑにもゆめさめて秋のもゝ夜の心地せしかなといひたる返ことにあか月をなにゝまちけむ思事なるともきかぬかねのをとゆへ 四月つこもりかたさるへきゆへありて東山なる所へうつろふみちのほと田のなはしろ水まかせたるもうへたるもなにとなくあおみおかしう見えわたりたる山のかけくらうまへちかう見えて心ほそくあはれなるゆふくれくひないみしくなくたゝくともたれかくひなのくれぬるに山地をふかくたつねてはこむ霊山ちかき所なれはまうてゝおかみ たてまつるにいとくるしけれは山てらなるいし井によりて手にむすひつゝのみてこの水のあかすおほゆるかなといふ人のあるにおく山のいしまの水をむすひあけてあかぬものとはいまのみやしるといひたれは水のむ人山の井のしつくにゝこる水よりもこは猶あかぬ心地こそすれかへりてゆふ日けさやかにさしたるに 宮この方ものこりなく見やらるゝにこのしつくにゝこる人は京にかへるとて心くるしけに思てまたつとめて山のはにいり日のかけはいりはてゝ心ほそくそなかめやられし念仏するそうのあか月にぬかつくをとのたうとくきこゆれはとをゝしあけたれはほの/\とあけゆく山きわこくらきこすゑともきりわたりて花もみちのさかりよりもなにとなくしけり わたれるそらのけしきくもらはしくおかしきにほとゝきすさへいとちかきこすゑにあまたゝひないたりたれに見せたれにきかせむ山さとのこのあかつきもおちかへるねもこのつこもりの日たにの方なる木のうへにほとゝきすかしかましくないたりみやこにはまつらむ物を郭公けふひねもすになきくらすかななとのみなかめつゝもろともにある人 たゝいま京にもきゝたらむ人あらむやかくてなかむらむと思をこする人あらむやなといひて山ふかくたれか思はをこすへき月見る人はおほからめともといへはふかき夜に月見るおりはしらねともまつ山さとそ思やらるゝあか月になりやしぬらむと思ほとに山の方より人あまたくるをとすおとろきて 見やりたれはしかのえんのもとまてきてうちないたるちかうてはなつかしからぬものゝこゑなり秋の夜のつまこひかぬるしかのねはとを山にこそきくへかりけれしりたる人のちかきほとにきてかへりぬときくにまたひとめしらぬ山辺の松風もをとしてかへるものとこそきけ八月になりて廿よ日のあかつきかたの月 いみしくあはれに山の方はこくらくたきのをともにる物なくのみなかめられて思しる人に見せはや山さとの秋のよふかきありあけの月京にかへりいつるにわたりし時は水はかり見えし田ともゝみなかりはてゝけりなはしろの水かけ許見えし田のかりはつるまてなかゐしにけり十月つこもりかたにあからさまにきて 見れはこくらうしけれりしこのはとものこりなくちりみたれていみしくあはれけに見えわたりて心ちよけにさゝらきなかれし水もこのはにうつもれてあとはかり見ゆ水さへそすみたえにけるこのはちるあらしの山の心ほそさにそこなる尼に春まていのちあらはかならすこむ花さかりはまつゝけよなといひてかへりにしを年かへりて 三月十余日になるまてをともせねはちきりをきし花のさかりをつけぬ哉春やまたこぬ花やにほはぬたひなる所にきて月のころ竹のもとちかくて風のをとにめのみさめてうちとけてねられぬころ竹の葉のそよく夜ことにねさめしてなにともなきに物そかなしき秋ころそこをたちてほかへうつろひてそのあるしに いつことも露のあはれはわかれしをあさちかはらの秋そこひしきまゝはゝなりし人くたりしくにの名を宮にもいはるゝにこと人かよはしてのちも猶その名をいはるときゝておやのいまはあいなきよしいひにやらむとあるにあさくらやいまは雲井にきく物を猶木のまろかなのりをやするかやうにそこはかなきことを思つゝく くるをやくにて物まうてをわつかにしてもはか/\しく人のやうならむともねむせられすこのころの世の人は十七八よりこそ経よみをこなひもすれさること思かけられすからうして思よることはいみしくやむことなくかたちありさま物かたりにあるひかる源氏なとのやうにおはせむ人を年にひとたひにてもかよはしたてまつりてうき舟の女君のやうに山さとに かくしすへられて花紅葉月雪をなかめていと心ほそけにてめてたからむ御ふみなとを時/\まち見なとこそせめとはかり思つゝけあらまし事にもおほえけりおや□□なりなはいみしうやむことなくわか身もなりなむなとたゝゆくゑなき事をうち思すくすにおやからうしてはるかにとをきあつまになりて年ころはいつしか思やうにちかき所になりたらは まつむねあく許かしつきたてゝゐてくたりて海山のけしきも見せそれをはさる物にてわか身よりもたかうもてなしかしつきて見むとこそおもひつれ我も人もすくせのつたなかりけれはあり/\てかくはるかなるくにゝなりにたりおさなかりし時あつまのくにゝゐてくたりてたに心地もいさゝかあしけれはこれをやこのくにゝ見すてゝまとはむとすらむと 思ふ人のくにのおそろしきにつけてもわか身ひとつならはやすらかならましをところせうひきくしていはまほしきこともえいはすせまほしきこともえせすなとあるかわひしうもあるかなと心をくたきしにいまはまいておとなになりにたるをゐてくたりてわかいのちもしらす京のうちにてさすらへむはれいのことあつまのくにゐなかひとになりて まとはむいみしかるへし京とてもたのもしうむかへとりてむと思ふるいしそくもなしさりとてわつかになりたるくにをしゝ申すへきにもあらねは京にとゝめてなかきわかれにてやみぬへき也京にもさるへきさまにもてなしてとゝめむとは思よる事にもあらすとよるひるなけかるゝをきく心地花もみちのおもひもみなわすれてかなしくいみしく思なけかるれと いかゝはせむ七月十三日にくたる五日かねては見むも中/\なへけれは内にもいらすまいてその日はたちさはきて時なりぬれはいまはとてすたれをひきあけてうち見あはせてなみたをほろ/\とおとしてやかていてぬるを見をくる心地めもくれまとひてやかてふされぬるにとまるをのこのをくりしてかへるにふところかみに おもふ事心にかなふ身なりせは秋のわかれをふかくしらましとはかりかゝれたるをもえ見やられす事よろしき時こそこしおれかゝりたる事も思つゝけゝれともかくもいふへき方もおほえぬまゝにかけてこそおもはさりしかこの世にてしはしもきみにわかるへしとはとやかゝれにけむいとゝ人めも見えすさひしく心ほそくうちなかめつゝいつこはかりと あけくれ思やる道のほともしりにしかはゝるかにこひしく心ほそきことかきりなしあくるよりくるゝまて東の山きはをなかめてすくす八月許にうつまさにこもるに一条よりまうつる道におとこくるまふたつはかりひきたてゝ物へゆくにもろともにくへき人まつなるへしすきてゆくにすいしんたつものをゝこせて花見にゆくときみを見るかな といはせたれはかゝるほとの事はいらへぬもひんなしなとあれは千くさなる心ならひに秋のゝのとはかりいはせていきすきぬ七日さふらふほともたゝあつまちのみ思ひやられてよしなしことからうしてはなれてたひらかにあひ見せ給へと申すは仏もあはれときゝいれさせ給けむかし冬になりてひくらしあめふりくらいたる夜くもかへる風 はけしうゝちふきてそらはれて月いみしうあかうなりてのきちかきおきのいみしく風にふかれてくたけまとふかいとあはれにて秋をいかに思いつらむ冬ふかみあらしにまとふおきのかれはゝあつまより人きたり神拝といふわさしてくにの内ありきしに水おかしくなかれたる野のはる/\とあるに木むらのあるおかしき所かな 見せてとまつ思いてゝこゝはいつことかいふとゝへはこしのひのもりとなむ申すとこたへたりしか身によそへられていみしくかなしかりしかはむまよりおりてそこにふた時なむなかめられしとゝめをきてわかこと物や思けむ見るにかなしきこしのひのもりとなむおほえしとあるを見る心地いへはさらなり返ことにこしのひをきくにつけてもとゝめをきし ちゝふの山のつらきあつまちかうてつれ/\となかむるになとか物まうてもせさりけむはゝいみしかりしこたいの人にてはつせにはあなおそろしならさかにて人にとられなはいかゝせむいし山せき山こえていとおそろしくらまはさる山ゐていてむいとおそろしやおやのほりてともかくもとさしはなちたる人のやうにわつらはしかりて わつかに清水にゐてこもりたりそれにもれいのくせはまことしかへい事も思ひ申されすひかんのほとにていみしうさはかしうおそろしきまておほえてうちまとろみいりたるにみ帳の方のいぬふせきの内にあおきをりものゝ衣をきてにしきをかしらにもかつきあしにもはいたるそうの別当とおほしきかよりきてゆくさきのあはれならむもしらす さもよしなし事をのみとうちむつかりてみ帳の内にいりぬと見てもうちおとろきてもかくなむ見えつるともかたらす心にも思とゝめてまかてぬはゝ一尺の鏡をいさせてえゐてまいらぬかはりにとてそうをいたしたてゝはつせにまうてさすめり三日さふらひてこの人のあへからむさま夢に見せ給へなといひてまうてさするなめりそのほとは精 進せさすこのそうかへりて夢をたに見てまかてなむかほいなきこといかゝかへりても申すへきといみしうぬかつきをこなひてねたりしかは御帳の方よりいみしうけたかうきよけにおはする女のうるわしくさうそき給へるかたてまつりしかゝみをひきさけてこのかゝみにはふみやそひたりしとゝひ給へはかしこまりてふみもさふらはさりきこのかゝみをなむ たてまつれと侍しとこたへたてまつれはあやしかりける事かなふみそふへきものをとてこのかゝみをこなたにうつれるかけを見よこれ見れはあはれにかなしきそとてさめ/\となき給を見れはふしまろひなきなけきたるかけうつれりこのかけを見れはいみしうかなしなこれ見よとていまかたつかたにうつれるかけを見せたまへはみすともあおやかに木長 をしいてたるしたよりいろ/\のきぬこほれいて梅さくらさきたるにうくひすこつたひなきたるを見せてこれを見るはうれしなとの給となむ見えしとかたるなりいかに見えけるそとたにみゝもとゝめす物はかなき心にもつねにあまてる御神をねむし申せといふ人ありいつこにおはします神仏にかはなとさはいへとやう/\思ひわかれて人にとへは神に おはします伊勢におはします紀いのくにゝきのこくさうと申すはこの御神也さては内侍所にすへら神となむおはしますといふ伊勢のくにまては思かくへきにもあらさなり内侍所にもいかてかはまいりおかみたてまつらむそらのひかりをねむし申すへきにこそはなとうきておほゆしそくなる人あまになりてすかく院にいりぬるに冬ころ なみたさへふりはへつゝそ思やるあらしふくらむ冬の山さと返しわけてとふ心のほとの見ゆるかなこかけをくらき夏のしけりをあつまにくたりしおやからうしてのほりて西山なる所におちつきたれはそこにみな渡て見るにいみしうゝれしきに月のあかき夜ひとよものかたりなとして かゝる世もありける物をかきりとてきみにわかれし秋はいかにそといひたれはいみしくなきて思事かなはすなそといとひこしいのちのほともいまそうれしきこれそわかれのかとてといひしらせしほとのかなしさよりはたいらかにまちつけたるうれしさもかきりなけれと人のうへにても見しにおいおとろへて世にいてましらひしは おこかましく見えしかは我はかくてとちこもりぬへきそとのみのこりなけに世を思ひいふめるに心ほそさたえす東は野のはる/\とあるにひむかしの山きはゝひえの山よりしていなりなといふ山まてあらはに見えわたり南はならひのをかの松風いとみゝちかう心ほそくきこえて内にはいたゝきのもとまて田といふものゝひたひきならすをとなとゐ中の心ちして いとおかしきに月のあかき夜なとはいとおもしろきをなかめあかしくらすにしりたりし人さとゝをくなりてをともせすたよりにつけてなにことかあらむとつたふる人におとろきて思いてゝ人こそとはね山さとのまかきのおきに秋風はふくといひにやる十月になりて京にうつろふはゝあまになりておなし 家の内なれとかたことにすみはなれてありてゝはたゝ我をおとなにしすへて我は世にもいてましらはすかけにかくれたらむやうにてゐたるを見るもたのもしけなく心ほそくおほゆるにきこしめすゆかりある所になにとなくつれ/\に心ほそくてあらむよりはとめすをこたいのおやは宮つかへ人はいとうき事也と思て すくさするを今の世の人はさのみこそはいてたてさてもをのつからよきためしもありさても心見よといふ人/\ありてしふ/\にいたしたてらるまつ一夜まいるきくのこくうすき八はかりにこきかいねりをうへにきたりさこそ物かたりにのみ心をいれてそれを見るよりほかにゆきかよふるいしそくなとたにことになくこたいのおやとものかけ はかりにて月をも花をも見るよりほかの事はなきならひにたちいつるほとの心地あれかにもあらすうつゝともおほえてあかつきにはまかてぬさとひたる心地には中/\さたまりたらむさとすみよりはおかしき事をも見きゝて心もなくさみやせむと思おり/\ありしをいとはしたなくかなしかるへきことにこそあへかめれとおもへといかゝせむしはすになりて 又まいるつほねしてこのたひは日ころさふらふうへには時/\よる/\ものほりてしらぬ人の中にうちふしてつゆまとろまれすはつかしうものゝつゝましきまゝにしのひてうちなかれつゝあかつきには夜ふかくおりてひくらしてゝのおいおとろへて我をことしもたのもしからむかけのやうに思たのみむかひゐたるにこひしくおほつかなくのみおほゆ はゝなくなりにしめひともゝむまれしよりひとつにてよるはひたりみきにふしおきするもあはれに思いてられなとして心もそらになかめくらさるたちきゝかいまむ人のけはひしていといみしくものつゝまし十日はかりありてまかてたれはてゝはゝすひつに火なとをこしてまちゐたりけりくるまよりおりたるをうち見ておはする時こそ人めも見えさふらひなとも ありけれこの日ころは人こゑもせすまへに人かけも見えすいと心ほそくわひしかりつるかうてのみもまろか身をはいかゝせむとかするとうちなくを見るもいとかなしつとめてもけふはかくておはすれはうちと人おほくこよなくにきわゝしくもなりたるかなとうちいひてむかひゐたるもいとあはれになにのにほひのあるにかとなみたくましうきこゆ ひしりなとすらさきの世のことゆめに見るはいとかたかなるをいとかうあとはかないやうにはか/\しからぬ心地にゆめに見るやうきよ水のらい堂にゐたれは別当とおほしき人いてきてそこはさきの生にこのみてらのそうにてなむありし仏師にてほとけをいとおほくつくりたてまつりしくとくによりてありしすさうまさりて人とむまれたるなり このみたうの東におはする丈六の仏はそこのつくりたりし也はくををしさしてなくなりにしそとあないみしさはあれにはくをしたてまつらむといへはなくなりにしかはこと人はくをしたてまつりてこと人くやうもしてしと見てのちきよ水にねむころにまいりつかうまつらましかはさきの世にそのみてらに仏ねむし申けむちからにをのつからようも やあらましいといふかひなくまうてつかうまつることもなくてやみにき十二月廿五日宮の御仏名にめしあれはその夜はかりと思てまいりぬしろききぬともにこきかいねりをみなきて四十余人はかりいてゐたりしるへしいてし人のかけにかくれてあるか中にうちほのめいてあか月にはまかつゆきうちゝりつゝいみしくはけしくさえこほるあかつきかたの月の ほのかにこきかいねりのそてにうつれるもけにぬるゝかほなりみちすから年はくれ夜はあけかたの月かけのそてにうつれるほとそはかなきかうたちいてぬとならはさても宮つかへの方にもたちなれ世にまきれたるもねちけかましきおほえもなきほとはをのつから人のやうにもおほしもてなさせ給やうもあらましおやたちもいと心えすほともなく こめすへつさりとてそのありさまのたちまちにきら/\しきいきほひなとあんへいやうもなくいとよしなかりけるすゝろ心にてもことのほかにたかひぬるありさまなりかしいくちたひ水の田せりをつみしかは思しことのつゆもかなはぬとはかりひとりこたれてやみぬそのゝちはなにとなくまきらはしきにものかたりのことも うちたえわすられて物まめやかなるさまに心もなりはてゝそなとておほくの年月をいたつらにてふしをきしにをこなひをも物まうてをもせさりけむこのあらましこととても思しことゝもはこの世にあんへかりけることゝもなりやひかる源氏はかりの人はこの世におはしけりやはかほる大将の宇治にかくしすへ給へきもなき世なりあな物 くるをしいかによしなかりける心也と思しみはてゝまめ/\しくすくすとならはさてもありはてすまいりそめし所にもかくかきこもりぬるをまことゝもおほしめしたらぬさまに人/\もつけたえすめしなとする中にもわさとめしてわかいひとまいらせよとおほせらるれはえさらすいたしたつるにひかされて又時/\いてたてとすきにし方の やうなるあいなたのみの心をこりをたにすへきやうもなくてさすかにわかい人にひかれており/\さしいつるにもなれたる人はこよなくなにことにつけてもありつきかほに我はいとわかうとにあるへきにもあらす又おとなにせらるへきおほえもなく時/\のまらうとにさしはなたれてすゝろなるやうなれとひとへにそなたひとつをたのむへきならねは 我よりまさる人あるもうらやましくもあらす中/\心やすくおほえてさんへきおりふしまいりてつれ/\なるさんへき人と物かたりなとしてめてたきこともおかしくおもしろきおり/\もわか身はかやうにたちましりいたく人にも見しられむにもはゝかりあんへけれはたゝおほかたの事にのみきゝつゝすくすに 内の御ともにまいりたるおりありあけの月いとあかきにわかねむし申すあまてる御神は内にそおはしますなるかしかゝるおりにまいりておかみたてまつらむと思て四月はかりの月のあかきにいとしのひてまいりたれははかせの命婦はしるたよりあれはとうろの火のいとほのかなるにあさましくおい神さひて さすかにいとよう物なといひゐたるか人ともおほえす神のあらはれたまへるかとおほゆ又の夜も月のいとあかきにふちつほのひむかしのとをゝしあけてさへき人/\物かたりしつゝ月をなかむるにむめつほの女御のゝほらせ給なるをとなひいみしく心にくゝいうなるにも故宮の おはします世ならましかはかやうにのほらせ給はましなと人/\いひいつるけにいとあはれなりかしあまのとを雲井なからもよそに見てむかしのあとをこふる月かな冬になりて月なくゆきもふらすなからほしのひかりにそらさすかにくまなくさえわたりたる夜のかきり殿の御方にさふらふ人/\と物かたりしあかしつゝあくれはたち わかれ/\しつゝまかてしを思いてけれは月もなく花も見さりし冬のよの心にしみてこひしきやなそ我もさ思ことなるをおなし心なるもおかしうてさえし夜の氷は袖にまたとけて冬の夜なからねをこそはなけ御前にふしてきけは池の鳥とものよもすからこゑ/\はふきさはくをとのするにめもさめて わかことそ水のうきねにあかしつゝうはけのしもをはらひわふなるとひとりこちたるをかたわらにふし給へる人きゝつけてましておもへ水のかりねのほとたにそうわけのしもをはらひわひけるかたらふ人とちつほねのへたてなるやりとをあけあはせて物かたりなとしくらす日又かたらふ人のうへにものしたまふをたひ/\よひおろすに せちにことあらはいかむとあるにかれたるすゝきのあるにつけて冬かれのしのゝをすゝき袖たゆみまねきもよせし風にまかせむ上達部殿上人なとにたいめんする人はさたまりたるやうなれはうゐ/\しきさと人はありなしをたにしらるへきにもあらぬに十月ついたちころのいとくらき夜ふたん経にこゑよき人/\よむほとなりとて そなたちかきとくちにふたりはかりたちいてゝきゝつゝ物かたりしてよりふしてあるにまいりたる人のあるをにけいりてつほねなるひと/\よひあけなとせむも見くるしさはれたゝおりからこそかくてたゝといふいまひとりのあれはかたわらにてきゝゐたるにおとなしくしつやかなるけはいにて物なといふくちおしから さなりいまひとりはなとゝひて世のつねのうちつけのけさうひてなともいひなさす世中のあはれなることゝもなとこまやかにいひいてゝさすかにきひしうひきいりかたいふし/\ありて我も人もこたえなとするをまたしらぬ人のありけるなとめつらしかりてとみにたつへくもあらぬほとほしのひかりたに見えすくらきにうちしくれつゝこのはに かゝるをとのおかしきを中/\にえむにおかしき夜かな月のくまなくあかゝらむもはしたなくまはゆかりぬへかりけり春秋の事なといひて時にしたかひ見ることには春かすみおもしろくそらものとかにかすみ月のおもてもいとあかうもあらすとをうなかるゝやうに見えたるに琵琶のふかうてうゆるゝかにひきならしたる いといみしくきこゆるに又秋になりて月いみしうあかきにそらはきりわたりたれと手にとるはかりさやかにすみわたりたるにかせのをとむしのこゑとりあつめたる心地するに箏のことかきならされたるゐやう定のふきすまされたるはなその春とおほゆかし又さかとおもへは冬の夜のそらさへさえわたりいみしきにゆきのふり つもりひかりあひたるにひちりきのわなゝきいてたるは春秋もみなわすれぬかしといひつゝけていつれにか御心とゝまるとゝふに秋の夜に心をよせてこたへ給をさのみおなしさまにはいはしとてあさ緑花もひとつにかすみつゝおほろに見ゆる春の夜の月とこたへたれは返/\うちすんしてさは秋のよはおほしすてつるなゝりな こよひより後のいのちのもしもあらはさは春の夜をかたみとおもはむといふに秋に心よせたる人人はみな春に心をよせつめり我のみや見む秋のよの月とあるにいみしうけうし思わつらひたるけしきにてもろこしなとにも昔より春秋のさためはえし侍らさなるをこのかうおほし わかせ給けむ御心ともおもふにゆへ侍らむかしわか心のなひきそのおりのあはれともおかしとも思事のある時やかてそのおりのそらのけしきも月も花も心にそめらるゝにこそあへかめれ春秋をしらせ給けむことのふしなむいみしうゝけたまはらまほしき冬の夜の月はむかしよりすさま しきものゝためしにひかれて侍けるに又いとさむくなとしてことに見られさりしを斎宮の御もきの勅使にてくたりしにあかつきにのほらむとて日ころふりつみたる雪に月のいとあかきにたひのそらとさへおもへは心ほそくおほゆるにまかり申にまいりたれはよの所にもにす思なしさへけおそろしきにさへきところにめして 円融院の御世よりまいりたりける人のいといみしく神さひふるめいたるけはいのいとよしふかくむかしのふることゝもいひいてうちなきなとしてようしらへたるひわの御ことをさしいてられたりしはこの世のことゝもおほえす夜のあけなむもおしう京のことも 思たえぬはかりおほえ侍しよりなむ冬の夜の雪ふれる夜は思しられて火をけなとをいたきてもかならすいてゐてなむ見られ侍おまへたちもかならすさおほすゆへ侍らむかしさらはこよひよりはくらきやみの夜のしくれうちせむは又心にしみ侍なむかし斎宮の雪の夜におとるへき心ちもせすなむなといひて わかれにしのちはたれとしられしと思しを又のとしの八月に内へいらせ給によもすから殿上にて御あそひありけるにこの人のさふらひけるもしらすそのよはしもにあかしてほそとのゝやりとをゝしあけて見いたしたれはあか月方の月のあるかなきかにおかしきを見るにくつのこゑきこえてと経 なとする人もありと経の人はこのやりとくちにたちとまりて物なといふにこたへたれはふと思いてゝ時雨の夜こそかた時わすれすこひしく侍れといふにことなかうこたふへきほとならねはなにさまて思いてけむなをさりのこのはにかけしゝくれはかりをともいひやらぬを人/\又きあへはやかてすへりいりてそのよさり まかてにしかはもろともなりし人たつねて返しゝたりしなとものちにそきくありしゝくれのやうならむにいかてひわのねのおほゆるかきりひきてきかせむとなむあるときくにゆかしくて我もさるへきおりをまつにさらになしはるころのとやかなるゆふ つかたまいりたなりときゝてその夜もろともなりし人とゐさりいつるにとに人/\まいりうちにもれいのひと/\あれはいてさいていりぬあの人もさや思けむしめやかなるゆふくれをゝしはかりてまいりたりけるにさはかしかりけれはまかつめりかしまみてなるとのうらにこかれいつる心はえきやいそのあま人 とはかりにてやみにけりあの人からもいとすくよかに世のつねならぬ人にてその人はかの人はなともたつねとはてすきぬいまはむかしのよしなし心もくやしかりけりとのみ思しりはておやのものへゐてまいりなとせてやみにしもゝとかしく思いてらるれはいまはひとへにゆたかなるいきおひになりて ふたはの人をもおもふさまにかしつきおほしたてわか身もみくらの山につみあまるはかりにてのちの世まてのことをもおもはむと思はけみてしも月の廿よ日いし山にまいるゆきうちふりつゝみちのほとさへおかしきにあふさかのせきを見るにもむかしこえしも冬そかしと思いてらるゝにそのほとしもいとあらうふいたり あふさかの関のせき風ふくこゑはむかしきゝしにかはらさりけりせきてらのいかめしうつくられたるを見るにもそのおりあらつくりの御かほはかり見られしおり思いてられて年月のすきにけるもいとあはれ也うちいてのはまのほとなと見しにもかはらすくれかゝるほとにまうてつきてゆやにおりてみたうにのほるに人こゑもせす 山かせおそろしうおほえてをこなひさしてうちまとろみたる夢に中堂よりさかう給はりぬとくかしこへつけよといふ人あるにうちおとろきたれはゆめなりけりとおもふによきことならむかしと思てをこなひあかす又の日もいみしく雪ふりあれて宮にかたらひきこゆる人のくし給へるとものかたりして心ほそさをなくさむ三日 さふらひてまかてぬそのかへる年の十月廿五日大嘗會の御禊とのゝしるにはつせの精進はしめてその日京をいつるにさるへき人/\一代に一度の見ものにてゐ中せかいの人たに見る物を月日おほかりその日しも京をふりいてゝいかむもいとものくるおしくなかれてのものかたりともなりぬへき 事也なとはらからなる人はいひはらたてとちことものおやなる人はいかにも/\心にこそあらめとていふにしたかひていたしたつる心はへもあはれ也ともにゆく人/\もいといみしく物ゆかしけなるはいとおしけれともの見てなにゝかはせむかゝるおりにまうてむ心さしをさりともおほしなむかならす仏の御しるしを 見むと思たちてそのあか月に京をいつるに二条のおほちをしもわたりていくにさきにみあかしもたせともの人/\上えすかたなるをそこらさしきともにうつるとていきちかふむまもくるまもかち人もあれはなそ/\とやすからすいひおとろきあさみわらひあさける物ともゝありよしよりの兵衛のかみと申ゝ人の家のまへをすくれはそれさしきへ わたり給なるへしかとひろうをしあけてひと/\たてるかあれは物まうて人なめりな月日しもこそ世におほかれとわらふなかにいかなる心ある人にか一時かめをこやしてなににかはせむいみしくおほしたちて仏の御とくかならす見給へき人にこそあめれよしなしかし物見てかうこそ思たつへかりけれとまめやかにいふ人ひとりそあるみちけんそう ならぬさきにと夜ふかういてしかはたちをくれたる人/\もまちいとおそろしうふかきゝりをもすこしはるけむとて法性寺の大門にたちとまりたるにゐなかより物見にのほるものとも水のなかるゝやうにそ見ゆるやすへて道もさりあへす物の心しりけもなきあやしのわらはへまてひきよきてゆきすくるをくるまをおとろきあさみたることかきり なしこれらを見るにけにいかにいてたちしみちなりともおほゆれとひたふるに仏をねむしたてまつりて宇治の渡にいきつきぬそこにも猶しもこなたさまにわたりする物とも立こみたれは舟のかちとりたるをのこともふねをまつ人のかすもしらぬに心おこりしたるけしきにて袖をかいまくりてかほにあてゝさおにをしかゝりてとみに舟も よせすうそふいて見まわしいといみしうすみたるさま也むこにえわたらてつく/\と見るにむらさきの物かたりに宇治の宮のむすめともの事あるをいかなる所なれはそこにしもすませたるならむとゆかしく思し所そかしけにおかしき所哉と思つゝからうして渡て殿の御らう所のうち殿をいりて見るにもうきふねの女きみの かゝる所にやありけむなとまつ思いてらる夜ふかくいてしかは人/\こうしてやひろうちといふ所にとゝまりてものくひなとするほとにしもともなる物ともかうみやうのくりこま山にはあらすや日もくれかたになりぬめりぬしたちてうとゝりおはさうせよやといふをいと物おそろしうきくその山こえはてゝにへのゝ池のほとりへいきつきたるほと 日は山のはにかゝりにたり今はやととれとて人/\あかれてやともとむる所はしたにていとあやしけなる下すのこいへなむあるといふにいかゝはせむとてそこにやとりぬみな人/\京にまかりぬとてあやしのをのこふたりそゐたるその夜もいもねすこのをのこいていりしありくをおくの方なる女ともなとかくしありかるゝそとゝふなれはいなや心も しらぬ人をやとしたてまつりてかまはしもひきぬかれなはいかにすへきそと思てえねてまはりありくそかしとねたると思ていふきくにいとむく/\しくおかしつとめてそこをたちて東大寺によりておかみたてまつるいその神もまことにふりにける事思やられてむけにあれはてにけりその夜山のへといふ所のてらにやとりていとくるし けれと経すこしよみたてまつりてうちやすみたるゆめにいみしくやむことなくきよらなる女のおはするにまいりたれは風いみしうふく見つけてうちゑみてなにしにおはしつるそとゝひたまへはいかてかはまいらさらむと申せはそこは内にこそあらむとすれはかせの命婦をこそよくかたらはめとのたまふと思てうれしくたのもしくていよ/\ ねむしたてまつりてはつせ河なとうちすきてその夜みてらにまうてつきぬはらへなとしてのほる三日さふらひてあか月まかてむとてうちねふりたるよさりみたうの方よりすはいなりよりたまはるしるしのすきよとて物をなけいつるやうにするにうちおとろきたれはゆめなりけりあか月よふかくいてゝえとまらねはならさかのこなたなる 家をたつねてやとりぬこれもいみしけなるこいゑ也こゝはけしきある所なめりゆめいぬなれうかいのことあらむにあなかしこをひえさはかせ給ないきもせてふさせ給へといふをきくにもいといみしうわひしくおそろしうて夜をあかすほとちとせをすくす心地すからうしてあけたつほとにこれはぬす人の家也あるしの女けしき ある事をしてなむありけるなといふいみしう風のふく日宇治の渡をするにあしろいとちかうこきよりたりをとにのみきゝわたりこし宇治河のあしろの浪もけふそかそふる二三年四五年へたてたることをしたいもなくかきつゝくれはやかてつゝきたちたるす行者めきたれとさにはあらす年月へたゝれる事也 春ころくらまにこもりたり山きはかすみわたりのとやかなるにやまの方よりわつかにところなとほりもてくるもおかしいつるみちは花もみなちりはてにけれはなにともなきを十月許にまうつるに道のほと山のけしきこのころはいみしうそまさる物なりける山のはにしきをひろけたるやう也たきりて なかれゆく水すいしやうをちらすやうにわきかへるなといつれにもすくれたりまうてつきてそうはうにいきつきたるほとかきしくれたる紅葉のたくひなくそ見ゆるやおく山の紅葉のにしきほかよりもいかにしくれてふかくそめけむとそ見やらるゝ二年はかりありて又いし山にこもりたれはよもすからあめそいみしくふるたひゐは 雨いとむつかしき物ときゝてしとみをゝしあけて見れはありあけの月のたにのそこさへくもりなくすみわたり雨ときこえつるは木のねより水のなかるゝをと也谷河の流は雨ときこゆれとほかよりけなる在明の月又はつせにまうつれはゝしめにこよなくものたのもし所/\にまうけなとしていきもやらす山 しろのくにはゝそのもりなとにもみちいとおかしきほと也はつせ河わたるにはつせ河立帰つゝたつぬれはすきのしるしもこのたひや見むと思もいとたのもし三日さふらひてまかてぬれはれいのならさかのこなたにこ家なとにこのたひはいとるいひろけれはえやとるましうて野中にかりそめにいほつくりて すへたれは人はたゝ野にゐて夜をあかす草のうへにむかはきなとをうちしきてうへにむしろをしきていとはかなくて夜をあかすかしらもしとゝにつゆをくあか月かたの月いといみしくすみわたりてよにしらすおかしゆくゑなきたひのそらにもをくれぬは宮こにて見しありあけの月なにことも心にかなはぬこともなき まゝにかやうにたちはなれたる物まうてをしても道のほとをおかしともくるしとも見るにをのつから心もなくさめさりともたのもしうさしあたりてなけかしなとおほゆることゝもないまゝにたゝおさなき人/\をいつしか思さまにしたてゝ見むと思に年月のすき行を心もとなくたのむ人たに人のやうなるよろこひしてはとのみ 思わたる心地たのもしかしいにしへいみしうかたらひよるひるうたなとよみかはしゝ人のあり/\てもいとむかしのやうにこそあらねたえすいひわたるか越前守のよめにてくたりしかかきたえをともせぬにからうしてたよりたつねてこれよりたえさりし思も今はたえにけりこしのわたりの雪のふかさに といひたる返ことにしら山のゆきのしたなるさゝれいしの中のおもひはきえむものかはやよひのついたちころに西山のおくなる所にいきたる人めも見えすのと/\とかすみわたりたるにあはれに心ほそく花はかりさきみたれたりさとゝをみあまりおくなる山ちには花見にとても人こさりけり 世中むつかしうおほゆるころうつまさにこもりたるに宮にかたらひきこゆる人の御もとよりふみある返こときこゆるほとにかねのをとのきこゆれはしけかりしうき世の事もわすられすいりあひのかねの心ほそさにとかきてやりつうら/\とのとかなる宮にておなし心なる人三人許ものかたりなとしてまかてゝ又の日 つれ/\なるまゝにこひしう思いてらるれはふたりの中に袖ぬるゝあらいそ浪としりなからともにかつきをせしそこひしきときこえたれはあらいそはあされとなにのかひなくてうしほにぬるゝあまのそて哉いま一人見るめおふる浦にあらすはあらいそのなみまかそふるあまもあらしを おなし心にかやうにいひかはし世中のうきもつらきもおかしきもかたみにいひかたらふ人ちくせんにくたりてのち月のいみしうあかきにかやうなりし夜宮にまいりてあひてはつゆまとろますなかめあかいしものをこひしく思つゝねいりにけり宮にまいりあひてうつゝにありしやうにてありと見てうちおとろきたれはゆめなりけり 月も山のはちかうなりにけりさめさらましをといとゝなかめられて夢さめてねさめのとこのうく許こひきとつけよにしへゆく月さるへきやうありて秋ころいつみにくたるによとゝいふよりしてみちのほとのおかしうあはれなることいひつくすへうもあらすたかはまといふ所にとゝまりたるよいとくらきに夜いたうふけて舟のかちの をときこゆとふなれはあそひのきたるなりけりひと/\けうして舟にさしつけさせたりとをき火のひかりにひとへのそてなかやかにあふきさしかくしてうたうたひたるいとあはれに見ゆ又の日山のはに日のかゝるほとすみよしの浦をすくそらもひとつにきりわたれる松のこすゑもうみのおもてもなみのよせくるなきさの ほともゑにかきてもをよふへき方なうおもしろしいかにいひなにゝたとへてかたらまし秋のゆふへのすみよしのうらと見つゝつなてひきすくるほとかへりみのみせられてあかすおほゆ冬になりてのほるにおほつといふうらに舟にのりたるにその夜雨風いはもうこく許ふりふゝきて神さへなりてとゝろくに 浪のたちくるをとなひ風のふきまとひたるさまおそろしけなることいのちかきりつと思まとはるをかのうへに舟をひきあけて夜をあかす雨はやみたれと風猶ふきて舟いたさすゆくゑもなきをかのうへに五六日とすくすからうして風いさゝかやみたるほと舟のすたれまきあけて見わたせはゆふしほたゝみちにみちくるさまとりも あへす入江のたつのこゑおしまぬもおかしく見ゆくにのひと/\あつまりきてその夜この浦をいてさせ給ていしつにつかせたまへらましかはやかてこの御舟なこりなくなりなましなといふ心ほそうきこゆあるゝ海に風よりさきにふなてしていしつの浪ときえなましかは世中にとにかくに心のみつくすに宮つかへとてもゝとはひとすちに つかうまつりつかはやいかゝあらむ時/\たちいてはなになるへくもなかめりとしはやゝさたすきゆくにわか/\しきやうなるも月なうおほえならるゝうちに身のやまひいとをもくなりて心にまかせて物まうてなとせしこともえせすなりたれはわくらはのたちいてもたえてなからふへき心地もせぬまゝにおさなきひと/\をいかにも/\わかあらむ 世に見をくこともかなとふしおき思なけきたのむ人のよろこひのほとを心もとなくまちなけかるゝに秋になりてまちいてたるやうなれと思しにはあらすいとほいなくくちおしおやのおりより立帰つゝ見しあつまちよりはちかきやうにきこゆれはいかゝはせむにてほともなくゝたるへきことゝもいそくに かとてはむすめなる人のあたらしくわたりたる所に八月十よ日にすのちのことはしらすそのほとのありさまは物さはかしきまて人おほくいきほいたり廿七日にくたるにおとこなるはそひてくたる紅のうちたるに萩のあをしをんのをりものゝさしぬきゝてたちはきて しりにたちてあゆみいつるをそれもをり物のあをにひいろのさしぬきかりきぬきてらうのほとにてむまにのりぬのゝしりみちてくたりぬるのちこよなうつれ/\なれといといたうとをきほとならすときけはさき/\のやうに心ほそくなとはおほえてあるにをくりのひと/\又の日かへりていみしうきら/\しうてくたりぬるといひてこのあか月にいみしく おほきなる人たまのたちて京さまへなむきぬるとかたれとゝもの人なとのにこそはと思ゆゝしきさまに思たによらむやはいまはいかてこのわかきひと/\おとなひさせむとおもふよりほかの事なきにかへる年の四月にのほりきて夏秋もすきぬ九月廿五日よりわつらひいてゝ十月五日にゆめのやうに見ないて おもふ心地世中に又たくひある事ともおほえすはつせにかゝみたてまつりしにふしまろひなきたるかけの見えけむはこれにこそはありけれうれしけなりけむかけはきし方もなかりきいまゆくすゑはあへいやうもなし廿三日はかなくくもけふりになす夜こその秋いみしくしたてかしつかれてうちそひてくたりしを見やりしをいとくろき きぬのうへにゆゝしけなるものをきてくるまのともになく/\あゆみいてゝゆくを見いたして思いつる心地すへてたとへむ方なきまゝにやかて夢ちにまとひてそ思にその人やみにけむかし昔よりよしなき物かたりうたのことをのみ心にしめてよるひる思てをこなひをせましかはいとかゝるゆめの世をは見すもやあらましはつせ にてまへのたひいなりよりたまふしるしのすきよとてなけいてられしをいてしまゝにいなりにまうてたらましかはかゝらすやあらまし年ころあまてる御神をねむしたてまつれと見ゆるゆめは人の御めのとして内わたりにありみかときさきの御かけにかくるへきさまをのみゆめときもあはせしかともそのことはひとつかなはてやみぬ たゝかなしけなりと見しかゝみのかけのみたかはぬあはれに心うしかうのみ心に物のかなふ方なうてやみぬる人なれはくとくもつくらすなとしてたゝよふさすかにいのちはうきにもたえすなからふめれとのちの世も思ふにかなはすそあらむかしとそうしろめたきにたのむことひとつそありける天喜三年 十月十三日の夜の夢にゐたる所のやのつまの庭に阿弥陀仏たちたまへりさたかには見えたまはすきりひとへゝたゝれるやうにすきて見え給をせめてたえまに見たてまつれは蓮花の座のつちをあかりたるたかさ三四尺仏の御たけ六尺はかりにて金色にひかりかゝやき給て御手かたつかたをはひろけたるやうにいまかたつかたには いんをつくり給たるをこと人のめには見つけたてまつらす我一人見たてまつるにさすかにいみしくけおそろしけれはすたれのもとちかくよりてもえ見たてまつらねは仏さはこのたひはかへりてのちにむかへにこむとのたまふこゑわかみゝひとつにきこえて人はえきゝつけすと見るにうちおとろきたれは十四日也このゆめ許 そのちのたのみとしけるをいともなとひと所にてあさゆふ見るにかうあはれにかなしきことののちは所/\になりなとしてたれも見ゆることかたうあるにいとくらい夜六らうにあたるをいのきたるにめつらしうおほえて月もいてゝやみにくれたるをはすてになにとてこよひたつねきつらむとそいはれにけるねむころにかたらふ人のかうてのちをとつれぬに いまは世にあらし物とや思らむあはれなく/\猶こそはふれ十月許月のいみしうあかきをなく/\なかめてひまもなき涙にくもる心にもあかしと見ゆる月のかけかな年月はすきかはりゆけとゆめのやうなりしほとを思いつれは心ちもまとひめもかきくらすやうなれは そのほとの事はまたさたかにもおほえす人/\はみなほかにすみあかれてふるさとにひとりいみしう心ほそくかなしくてなかめあかしわひてひさしうをとつれぬ人にしけりゆくよもきかつゆにそほちつゝ人にとはれぬねをのみそなくあまなる人也 世のつねのやとのよもきを思やれそむきはてたるにはのくさむら ひたちのかみすかはらのたかすゑのむすめの日記也母倫寧朝臣女傅のとのゝはゝうへのめひ也よはのねさめみつのはまゝつみつからくゆるあさくらなとはこの日記の人のつくられたるとそ