はじめに
Darts は, Double-Array [Aoe 1989]を構築するための シンプルな C++ Template Library です. Double-Array は Trie を表現するためのデータ構造です. ハッシュ木, デジタルトライ, パトリシア木, Suffix Array による擬似 Trieといった 他の Trie の実装に比べ高速に動作します. オリジナル の Double-Arrayは, 動的に key の追加削除を行えるような 枠組ですが, Darts は ソート済の辞書を一括してDouble-Array に変換することに機能を絞っています.
ハッシュのような単純な辞書として使うことも可能ですが, 形態素解析器の辞書に必須の Common Prefix Search を非常に高速に行うことができます.
2003年7月現在, Darts は, MeCab, ChaSen に採用されています. Darts は, MeCab で使 われている Double-Array のコードを 改めてパッケージングしたものです.
ダウンロード
- Darts はフリーソフトウェアです.LGPL(Lesser GNU General Public License) または BSD ライセンスに従って本ソフトウェアを使用,再配布することができます. 詳細は COPYING, LGPL, BSD各ファイルを参照して下さい.
Source
- darts-0.31.tar.gz: HTTP
インストール
% ./configure % make % make check % make install あとは, /usr/local/include/darts.h を include して使う
新着情報
- 2007-01-27: darts 0.31
- ライセンスをLGPLからBSD,LGPLのデュアルライセンスに変更
- 2005-12-25: darts 0.3
- Double Array の作成時に不正特殊をアクセスする可能性があるバグを修正
- メッソド名の一部変更 (setArray を set_array になど)
- rpm パッケージ配布の停止
- 2003-8-3: darts 0.2
- 特殊な検索文字列において, DoubleArray の未知領域をアクセスする可能性が あるバグを修正
- DoubleArray のノードを traverse するメソッド traverse () を追加 (実験的)
- setArray () にて DoubleArray のサイズを指定できるようになった
- commonPrefixSearch のインタフェースが変更された. 検索結果のバッファサイズを指定できるようになり, 安全性が高まった.
- 2003-2-15: darts 0.1
- rpm パッケージを用意した.
- mkdarts darts を $(prefix)/libexec/darts 以下にインストールするようにした
- 2003-2-14: darts 0.09
- open (FILE *), save (FILE *) インタフェイスの廃止 将来, C++ stream に変更する可能性があるため
- make install した時に darts.h が $(prefix)/include にインストールさ れるようにした.
- result_type, key_type という typedef を用意した.
- 2002-12-26: darts 0.08
- zlib の関数を zlib namespace に入れる.
- open, save の default mode を "rb", "wb" に変更
- Darts::build の戻り値の変更
- progress_func の 第一引数 (title の廃止)
- 2002-12-05: darts 0.07
- progress func に NULL を指定を指定したときに core をはくbugを修正
- 2002-10-13: darts 0.06
- gcc 3.2 への対応
gcc 3.2 では, 正常なDoubleArray が作成できないバグを修正 (コンパイラのバグの可能性あり)
宮田さんからの ご報告いただきました. ありがとうございます.
- gcc 3.2 への対応
- 2002-04-23: darts 0.05
- メソッド名の変更
- 2001-06-11: darts 0.04
- mkdarts の辞書ファイルとして - が与えられた場合, 標準入力から辞書を読み込 むようにした.
- configure option に --with-zlib or --without-zlib を追加
- 2001-05-24: darts 0.03
- ライセンスが GPL になってた部分を修正. LGPL です.
- 2001-05-23: darts 0.02
- 文字列終端と NULL文字の区別ができていなかったバグを修正. これにともない, index の互換性が無くなりました. 高岡さんら ご指摘をうけました. ありがとうございます.
- zlib を使い Double-Array を圧縮する methodを追加 (experimental)
- open,save の戻り値の変更, 標準的な UNIXに従い 0 を成功としました.
- get_unit_size という Double-Array の各要素の size を取得する method を追加
- 2001-05-21: darts 0.01
- Initial Release!
使い方
Darts は, darts.h を提供するのみの, C++ Template
Library です. そのつど include
して使用します.
inline 化による高速性を期待して,
このような配布形態にしています.
クラスのインターフェイス
namespace Darts { template <class NodeType, class NodeUType class ArrayType, class ArrayUType, class LengthFunc = Length<NodeType> > class DobuleArrayImpl { public: typedef ArrayType result_type; typedef NodeType key_type; DoubleArrayImpl(); ~DoubleArrayImpl(); int set_array(void *ptr, size_t = 0); void *array(); void clear(); size_t size (); size_t unit_size (); size_t nonzero_size (); size_t total_size (); int build (size_t key_size, key_type **key, size_t *len = 0, result_type *val = 0, int (*pg)(size_t, size_t) = 0); int open (const char *file, const char *mode = "rb", size_t offset = 0, size_t _size = 0); int save (const char *file, const char *mode = "wb", size_t offset = 0); result_type exactMatchSearch (const key_type *key, size_t len = 0, size_t node_pos = 0) size_t commonPrefixSearch (const key_type *key, result_type *result, size_t result_size, size_t len = 0, size_t node_pos = 0) result_type traverse (const key_type *key, size_t &node_pos, size_t &key_pos, size_t len = 0) }; typedef Darts::DoubleArrayImpl<char, unsigned char, int, unsigned int> DoubleArray; // int, unsigned int は, プラットフォーム依存. 実際には, 32 bit 整数 // になるように, configure が適切な型を選択する };
テンプレート引数の説明
NodeType | Trie の各ノードの型です. 一般的な C 文字列の検索なら, char 以外に設定する必要はありません. |
NodeUType | Trie の各ノードの型を符号無し整数に変換した型です. 一般的な C 文字列の検索なら, unsigned char 以外に設定する必要はありません. |
ArrayType | Double-Array の Base の要素に使用される型です. 通常は signed の 32bit 整数に設定します |
ArrayUType | Double-Array の Check の要素に使用される型です. 通常は unsigned の 32bit 整数に設定します |
LengthFunc | NodeType の配列を引数にしたときに, その配列のサイズを返す関数オブジェクトを 指定します. 内部呼び出しに operator () を使っている ので, () を overload しておく必要があります. NodeType が, char の場合は, strlen を wrap した関数オブジェクトが, それ以外は 0 を終了条件とみなして配列のサイズを計算します. |
32bit 整数の定義は OS, コンパイラ依存です.
実際には configure script が,
自動的に判別し,32bit になるように選択してくれます.
もし64 bit 整数を用いる場合は, template
引数で個々に指定してください.
typedef の説明
テンプレート引数に与えられた型の別名定義です. 外部から型名を参照する 時に使います.
key_type | 検索する key の 1つの要素の型です. NodeType と同一です. |
result_type | 1つの結果の型です. ArrayType と同一です. |
メソッドの説明
int Darts::DoubleArrayImpl::build(size_t size, key_type **str, size_t *len = 0, result_type *val = 0, int (*progress_func)(size_t, size_t) = 0)
- Double Array を構築します.
size には, 辞書のサイズ (いくつの単語を登録するか),
str には, 各単語へのポインタ (要素は size 個)
len は個々の単語のサイズの配列 (要素は size 個)
val には, 各単語に対応する値の配列 (要素は size 個)
progress_func には, 構築状況の表示に用いる関数へのポインタを指定します.
str の各要素は辞書順にソートされている必要があります.
また, val の各要素の中に, 負の要素はあってはいけません.
len, val, pg はそれぞれ省略可能です,
省略されると len には LengthFunc により計算された値が,
val には, 各要素が 0 から数えて何番目かをあらわす値が,
pg には, 何も表示を行なわないと解釈されます.
構築に成功すると, 0 が, 失敗すると 負の値が返ります.
表示関数 progress_func は, 2つの引数があります.
1つ目は size_t 型の整数で, 今まで構築した語彙の数,
2つ目も size_t 型の整数で全体の語彙の数です.
このような インタフェースを持つ関数へのポインタを渡すことで構築時の表示を 変更することができます. result_type Darts::DoubleArrayImpl::exactMatchSearch(const key_type *key, size_t len = 0, size_t node_pos = 0)
- exact match による検索を行います.
key には, 検索したい文字列を,
len には その文字列のサイズを,
node_pos には, Double-Array の検索開始位置を指定します.
len, と node_pos はそれぞれ省略可能で, 省略されると len には LengthFunc により計算された値が使用され,
node_pos は, root ノードとなります.
戻り値として, 検索に成功した場合はその key に対応する値が, 失敗したら -1 が返ってきます.
size_t Darts::DoubleArrayImpl::commonPrefixSearch (const key_type *key, result_type *result, size_t result_size, size_t len = 0, size_t node_pos = 0)
- common prefix search による検索を行います.
key には, 検索したい文字列を,
result は, 検索後, マッチした複数の結果値を格納するための配列を,
result_size は, 配列 result のサイズを,
len には 検索文字列のサイズを,
node_pos には, Double-Array の検索開始位置を指定します.
len, と node_pos はそれぞれ省略可能で, 省略されると len には LengthFunc により計算された値が使用され,
node_pos は, root ノードとなります.
戻り値として, マッチした要素の個数が返ってきます. 各要素の実際の値は, result を参照することで得られます. マッチした要素の個数が, result_size を越えた場合は, result_size 個だけ 配列 result に結果を格納します. 戻り値は, 実際にマッチした個数なので, result_size を越えた場合は, result のサイズを増やし, 再検索してください.
result_t Darts::DoubleArrayImpl::traverse (const key_type *key, size_t &node_pos, size_t &key_pos, size_t len = 0)
- Trie を traverse します
key には, 検索したい文字列を,
node_pos, には, DoubleArray の検索位置を,
key_pos には, 検索文字列の, 検索開始位置を,
len には, 検索文字列のサイズを指定します.
traverse のプロセスとは, key に従って TRIE を辿っていくことを差します.
ただし, 最後に辿った Trie 中の node の位置, 最後に辿った検索文字列の位置(何番目の文字)を得ることができます. これが, exactMatchSearch との違いになります.
node_pos は通常 root の位置 (0) を指定しておきます. node_pos は, 参照となっています. 関数呼び出し後, node_pos の値を 参照することで, traverse 後の, DoubleArray の位置が得られます.
key_pos は通常先頭の位置 (0) を指定しておきます. key_pos も, 参照となっています. 関数呼び出し後, key_pos の値を 参照することで, traverse 後の, 文字列の位置が得られます.
探索に失敗した場合は, 負の値 (-1) or (-2) を返します.
-1 は, leaf で失敗, -2 は, 途中の node で失敗を示します.
探索に成功した場合は, key に対応する value を返します.
int Darts::DoubleArrayImpl::save(const char *file, const char *mode = "wb", size_t offset = 0)
- Double-Array をファイルに保存します.
file には, 保存先のファイル名を,
mode には, fopen(3) に用いられる modeを指定します.
offset は将来のために予約されていて, 現在は使用されていません.
戻り値には 成功すれば, 0 が, 失敗すれば -1 が返ってきます.
int Darts::DoubleArrayImpl::open (const char *file, const char *mode = "rb", size_t offset = 0, size_t size = 0)
- Double-Array をファイルから読みこみます.
file には読みこむファイル名を,
mode には fopen(3) に用いられるmodeを,
offset には, ファイルの 何 byte 目から読むかの offset 情報を,
size には, 実際に 何 byte 読むのかを指定します.
size が 0 (デフォルト値) の場合は, size = ファイルサイズとなります.
戻り値には 成功すれば, 0 が, 失敗すれば -1 が返ってきます.
size_t Darts::DoubleArrayImpl::size()
- Double-Array のサイズを返します.
size_t Darts::DoubleArrayImpl::unit_size()
- Double-Array の1要素のサイズを返します.
size() * unit_size() が, Double-Array を保持するのに必要なメモリ のサイズになります.
size_t Darts::DoubleArrayImpl::nonzero_size()
- Double-Array の各要素のうち,
使用領域のサイズを返します.
nonezero_size()/size() にて, 圧縮率が計算できます.
void Darts::DoubleArrayImpl::set_array(void *ptr, size_t array_size = 0)
- ptr を Double-Array と解釈して Double-Array
への pointer に代入します.
これは, mmap(2) を用い, 保存済みの Double-Array への pointer を取得し,
その値を外部からセットする目的で用意されています. 見てのとおり 非常に ad-hoc な methodです.
また, array_size にて, Double-Array のサイズ (size() の戻り値) を指定することができます.
このサイズは, Double-Array のサイズであって, メモリのサイズではありません. array_size * unit_size () が, 実際のメモリサイズです. ご注意下さい.
この method を用いて設定された メモリ領域への解放作業は行われません.
void* Darts::DoubleArrayImpl::array()
-
Double Array を 生の void ポインタとして取得します.
この領域は, DoubleArray のインスタンスが管理しており, 扱いには注意が必要です.
Darts::DoubleArrayImpl::clear()
- 保持している, Double-Array を解放します.
サンプルプログラミング
static な辞書から Double-Arrayを構築する.
#include <iostream> #include <darts.h> int main (int argc, char **argv) { using namespace std; Darts::DoubleArray::key_type *str[] = { "ALGOL", "ANSI", "ARCO", "ARPA", "ARPANET", "ASCII" }; // same as char* Darts::DobuleArray::result_type val[] = { 1, 2, 3, 4, 5, 6 }; // same as int Darts::DoubleArray da; da.build (6, str, 0, val); cout << da.exactMatchSearch("ALGOL") << endl; cout << da.exactMatchSearch("ANSI") << endl; cout << da.exactMatchSearch("ARCO") << endl;; cout << da.exactMatchSearch("ARPA") << endl;; cout << da.exactMatchSearch("ARPANET") << endl;; cout << da.exactMatchSearch("ASCII") << endl;; cout << da.exactMatchSearch("APPARE") << endl; da.save("some_file"); } 実行結果 1 2 3 4 5 6 -1
標準入力から対話的に Double-Array に対し Common Prefix Search を行う
#include <iostream> #include <string> #include <algorithm> #include <darts.h> int main (int argc, char **argv) { using namespace std; Darts::DoubleArray da; if (da.open("some_file") == -1) return -1; Darts::DoubleArray::result_type r [1024]; Darts::DoubleArray::key_type buf [1024]; while (cin.getline (buf, 1024)) { size_t result = da.commonPrefixSearch(buf, r, 1024); if (result == 0) { cout << buf << ": not found" << endl; } else { cout << buf << ": found, num=" << result << " "; copy (r, r + result, ostream_iterator<Darts::DoubleArray::result_type>(cout, " ")); cout << endl; } } return 0; }
他のサンプルとして, mkdarts.cpp や darts.cpp をご覧ください
付属プログラムの説明
mkdarts
% ./mkdart DictionaryFile DoubleArrayFileソート済みの辞書を DoubleArrayFile に変換します.
darts
% ./darts DoubleArrayFile
DoubleArrayFile に対し対話的に common prefix search
を行います.
サンプルプログラムの 2番目とほぼ同じです.
使用例
% cd tests % head -10 linux.words ALGOL ANSI ARCO ARPA ARPANET ASCII .. % ../mkdarts linux.words dar Making Double Array: 100% |*******************************************| Done!, Compression Ratio: 94.6903 % % ../darts dar Linux Linux: found, num=2 3697 3713 Windows Windows: not found LaTeX LaTeX: found, num=1 3529
既知の問題
構造体の表現方法
Double-Array は,
struct Unit { ArrayType base; ArrayUType check; };
のような Unit の配列として表現されています. このファイルの入出力は, fread, fwrite を用いて,
fread ((Unit *)array, sizeof(Unit), size, fp); fwrite ((Unit *)array, sizeof(Unit), size, fp);
のように, 行われています. ごくまれですが, 構造体の配列の間に gap を挿入 する OS/コンパイラがあるそうです. したがって, このような読み書きは厳密に言えば移植性がありません. 私が使用している g++ 2.95.2 と Tru64 に附属の cxx は問題ないようなので, このままの状態にしていますが, いずれ移植性を高めるために書きなおすつもりです.
TODO
- Double-Array の解説文書の作成
- 幅優先の格納を考える
- 一部 vector <> を使ってる部分を駆逐
- 英語のマニュアルを書く
- 動的な削除と追加をサポート
参考文献, リンク
- [Aoe1989] Aoe, J. An Efficient Digital Search Algorithm by Using a Double-Array Structure. IEEE Transactions on Software Engineering. Vol. 15, 9 (Sep 1989). pp. 1066-1077.
- [Datrie] Theppitak Karoonboonyanan An Implementation of Double-Array Triehttp://www.links.nectec.or.th/~thep/datrie/
- [単語と辞書] 松本裕治 ほか. 単語と辞書 岩波講座言語の科学 Vol.3 pp.79-81
$Id: index.html 1575 2007-01-27 13:24:27Z taku $;